2003~2020年度の川崎医科大学衛生学の記録 ➡ その後はウェブ版「雲心月性」です。

研究分野及び主要研究テーマ

2003年度 「川崎医科大学 教育と研究」 より

研究分野:腫瘍細胞学、免疫学

主要研究テーマ:

1.塵肺症における免疫異常の病態解明

労働災害で外傷について頻度の高い塵肺症は、建設業・繊維業・鉱山労働者・石炭を燃料とする職種・酪農業・耐火煉瓦工・砕石業などに認められる。呼吸器障害に関しては、作業環境管理・作業管理・労働者自体の教育等により改善されてきているが、もう一つの問題として免疫異常、なかでも自己免疫疾患の合併頻度が高いというものがある。珪酸ならびに珪酸化合物の曝露に伴う免疫異常の発症は、今後、解決されなければならない問題であるとともに、塵肺症のみならず、なんらかの環境中の物質による免疫異常の惹起という病態の解明は重要な問題である。我々は in vitro モデルとして、ポリクローナルなT細胞株への珪酸化合物の曝露に伴う細胞生物学的性質の変化を検討するとともに、塵肺症症例の検体を用いて自己抗体・アポトーシス調節異常といった観点から解析を進めている。


2. 発癌及び腫瘍の進展に関連する因子の抽出と分子予防医学への応用

骨髄腫をそのモデルとして、carcinogenesis 及び tumor progression に関わる因子の抽出を主に細胞株を用いて行っている。骨髄腫は、造血器腫瘍の中では、老年に多発し、難治性で致死率の高い疾患であり、本邦の年齢構成の今後の変化を鑑みると、臨床的にもその対応の進歩が必要とされている疾患である。また、他の造血器腫瘍(白血病や悪性リンパ腫)のように染色体異常・遺伝子異常により引き起こされる分子病態と、臨床所見との関連が明白になっておらず、細胞生物学的にも解明が待たれている病態であり、その進展様式や細胞の性質からは、固形腫瘍にも関連の深い病態であろうことが想定されている。そこで、本学では20年来に渡って細胞株の樹立を試行し、現在までに15株の細胞株の樹立に成功している。これは国内外を見ても、単一施設としては稀有なものであり、これらのいくつかの細胞株は、最近数年の骨髄腫の領域での大きな進展である疾患特異的な染色体異常とそれにより惹起される特異的遺伝子過剰発現の発見の材料として使用され、現在も、国内外より譲与の依頼が絶えない状況にある。これらの細胞株を用いて、細胞内の因子(特異的過剰発現遺伝子・サイトカイン受容体・シグナル伝達系等)・細胞外とくに間質細胞からの因子(血管新生因子・サイトカイン・免疫担当細胞によるアポトーシス惹起因子等)・多彩な病態に関わる因子・新規治療薬剤との関連などの関連で解析を進めてきている。



○ 自己評価と反省

研究成果については、国内外での学会発表ならびに論文発表を行っている。

しかし、上記のテーマは両者とも非常に大きなものであり、いかんせん、人員不足の当教室としては、プロジェクトの進行が若干遅滞気味になっている印象が強い。また、少数の教室として、テーマの絞込みということも、今後、考慮しなければならない問題かも知れない。

加えて、大学の基礎系(応用医学系も含む)の教員としては、研究職としての自己の位置づけを失念してしまうと、教育関連等の時間の経過の中で、研究を企画立案し、実践し、評価再検討し、学会で発表し、最終的に論文として公表し、ひいては公表した論文を積み重ねて自らの研究の論点を明白にするという過程の途中でとどまってしまいがちになってしまうのではないか。そのようなことのないようにするには、常日頃からの研究職としての自らの意思を強固たるものにしなければならないし、自らの短期および長期的な研究とその成果の目標を常に設定かつ再編させて行き、そこに到達するためには、昼夜を問わず邁進する姿勢でいなければならないと考えるが、果たしてそのように実践出来ているがどうか。自己評価の意識を確固たるものにしなければ、事は成しえないと考えられる。この点を、教室員一同が再確認するとともに、そのことによって、より良い研究業績を積み上げることを達成しなければ、昨今の本邦の大学改革の流れの中で取り上げられてきている、業績による研究費・俸給の改変の問題ひいては任期制という事態に対応出来なくなる可能性もある。即ち、反省点としては、一人ひとりの意識改革をより性急に行わなければならないであろうということになる。